【大学教員編】研究職キャリアの選択肢

研究職のキャリアってどんな選択肢があるんだろう?

大学教授?企業に就職?

今回は研究職のキャリアの選択肢について、メリット・デメリットと共に見ていきたいと思います。私自身は理系の大学院で修士号を取得した後、企業の研究職として働いています。一方で、身の回りには博士課程に進学する人もいれば研究とは全く関係のない職業に就く人など、そのキャリアは多様です。そんな研究職のキャリアについて、自身の経験や知人の実例を交えて紹介していきます。

今回は大学編として、修士過程修了後、博士課程に進学し、教授へと至るキャリアについて見ていきたいと思います。民間企業編は【民間企業編】研究職キャリアの選択肢で紹介しています。

それでは見ていきましょう!目指せ大学教授!

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大学教員としてのキャリア

研究職と聞いて一般の人が最も思い浮かべそうな大学教員です。大学教員といっても、もちろん誰もが教授になれるわけではありません。飛び抜けて優秀な研究者は別ですが、教授に至るまでのキャリアは想像以上に大変なものです。あくまでも一例ですが、修士学生から教授に至るまでの過程は次のようになります。

大学院修士課程→大学院博士課程→ポスドク→助教→講師→准教授→教授

なにやら多くの肩書を経てやっと教授になれるようですね。それぞれの肩書について説明していきます。

大学院博士課程

Researcher

概要

修士課程を修了した学生が進学すると、博士(はくし、はかせ)課程となります。最高の学位である博士号の取得を目指し、さらなる学問の追求を行います。基本的に期間は3年ですが、学位の取得に4年、5年とかかってしまう場合もあります。3年間漠然と研究していれば学位が授与される、という甘い世界ではありません。研究を進め、成果をもとに学術論文への投稿や学会発表を行い、執筆した博士論文が認められることで学位が授与されます。学術論文や学会発表の件数が学位授与の要件となることもあるようです。

年収

  • 2,400,000円(月額200,000円として計算。後述。)
博士課程も学生であることに変わりはありません。修士学生と同様に入学金や授業料を納める必要があります。

一方で、日本学術振興会特別研究員(通称:学振)という制度もあります。この制度は「大学院博士課程在学者及び大学院博士課程修了者等で、優れた研究能力を有し、大学その他の研究機関で研究に専念することを希望する者を『特別研究員』に採用し、研究奨励金を支給する制度」です。要するに、優秀な博士課程学生に研究奨励金という名の給与(と研究費)が支給されるというものです。採用率は20%前後(2020年度)と狭き門ですが、意欲ある優秀な若手研究者が研究に専念するための制度として知られています。

メリット

  • 自分の好きな研究ができる

    所属する研究室にもよりますが、博士学生は自由度が高いです。研究テーマに関しても、自分が興味に合わせて選択することができます。筋が悪いな、やってみたらあまり面白くないな、と思ったら変更することも可能です。企業の経営方針に沿った研究をしたり、興味のない研究を押し付けられるといったことは基本的にはありません。

  • 時間的な制約が少ない

    コアタイム(研究室にいなければならない時間帯)が決まっている研究室もありますが、そうでない場合は自分の好きな時間に好きなだけ研究することができます。会社員のように定時に出社しなければならないということもありませんし、働き方改革によって残業時間が制限されることもありません(?)

  • 博士号という学位・称号

    博士号という学位は、一つの道を極めたものに与えられる勲章のようなものです。日本ではその価値があまり認められていないような印象を受けますが、海外では Ph.D.(博士のこと)の称号は一定の価値があるものとして一般に受け入れられています。例えば、一般の男性、女性の敬称は”Mr.”、”Ms.”ですが、博士号取得者の敬称は”Dr.”となります。日本では普段「博士の〇〇さん」などとは言われませんよね。名刺の肩書に「博士(工学)」などと記載できるくらいかもしれません。

    また、特に欧米では研究者として一人前と認められるには、修士号ではなく博士号を取得していることが1つの基準となります。アメリカの有名なドラマ「ビッグバン・セオリー」では、博士号をもつシェルドンが修士卒の友人ハワードを小馬鹿にするシーンが何度も描かれています。少し過剰な演出かもしれませんが、研究者からすると博士号取得者か、それ以外かで見方が変わるということは少なからずあると言えるでしょう。

デメリット

  • 博士は使いにくいという印象

    こちらも民間企業への就職を仮定した場合です。博士号とは1つの道を極めた者に与えられる称号であり、採用する企業としても、自社のビジネスに合致した研究について優れた実績をもつ学生であれば即戦力として雇いたいと考えることでしょう。一方で、その方針との重なりが少ない場合は、その実績を十分に活かせないことが考えられます。企業における研究には探索的なものも多く、会社の方針が変わった場合には、活かせると思っていた実績が活用できなくなってしまう場合も少なくないでしょう。それは即戦力を採用できたと思っていた会社と、自分が極めた力を活かせると考えていた個人の双方にとって好ましくない状況と言えます。そのような状況を避けたい企業が考えるのは、「最低限の研究の経験を積んでいる修士学生を採用する」ことです。待遇面でのコストや、今後企業でしてもらいたい、あるいはしてもらう可能性がある研究課題に対しての柔軟性を考えた際に、修士学生を採用した方がベターと考える企業は多く存在していると言えるでしょう。

    ただし、研究職という枠に囚われず、さらにグローバルな視野をもって考えた場合、「博士は使いにくい」という考え方は180度変わる場合があります。上述のように、博士号というのは、1つの道を極めたものに与えられる称号です。1つの道を極めるために必要な能力というのは、ある特定の分野に限られたものではありません。創造性や論理的思考力、物事を突き詰める力など、世の中の課題解決に必要とされる、幅広く応用可能な能力なのです。つまり、博士号=幅広い分野に応用可能な能力の研鑽の証と解釈することができるのです。実際、私の所属していた研究室にも、博士号を取得した後に世界的に有名なコンサルティングファームの海外支社に入社して活躍している先輩がおりました。このように、博士号取得者に対するリスペクトがあり、潜在性を評価する傾向は日本国内よりも海外で多く見られるものであるように思います。国内においても、以下のような博士号取得→戦略コンサルというパターンがあるようです。

    参考:https://gaishishukatsu.com/archives/88614)

  • 世界が狭くなりがち

    研究室で研究に打ち込んでいると、コミュニティの輪は広がりにくいです。研究室以外のコミュニティといえば、学会で知り合う同じ研究分野の仲間くらいということもザラです。時には研究以外のコミュニティを探して外の世界を感じることも意識すべきでしょう。

  • 「社会人」になるまで時間がかかる

    アカデミックの道を歩む上では関係ないかもしれませんが、仮に博士号取得後に就職を考える場合、通常社会人1年目は27,8歳の年です。浪人や留年を経験した人であれば、30歳目前という人も少なくないでしょう。個人の価値観次第ですが、学部卒で就職している人が中堅社員となったころにピカピカの社会人1年生!ということに不安を覚える人もいるかもしれません。また、家族や身近な人に博士号取得が価値あることだと理解してもらうことも必要になります。

 



ポスドク・助教・講師

概要

  • ポスドク

    厳しい博士号取得の過程を経て、無事博士課程を修了した後、准教授、果ては教授を目指したい!という方が進む、さらなるアカデミックの道がこちらです。特別優秀だったり、運良くポストが空いていたりするとすぐに助教になれる場合もありますが、そうでない場合、いわゆるポスドク(ポストドクターの略)として研究の実績をさらに積み上げることになります。学生としてではなく、一人の研究者として研究機関に雇用されるわけですから、新たな気持ちで誇りを持って研究に打ち込めることでしょう。ただ、一般に任期付きで雇用される場合が多く、不安定な立場であることは否めません。

  • 助教

    学生の研究指導や、自らも研究を行う教職です。かつては助手と呼ばれていたようですが、今では助教という職名が一般的です。助教として業績を積み上げ、講師への昇格を目指します。「授業科目を担当する」ことも可能です。

    参考:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/attach/1343036.htm

  • 講師

    助教としての実績が認められると、講師となることができます。その専攻分野において、「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有する」ことが求められます。

    参考:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/attach/1343036.htm

年収

  • 4,311,000円(助教博士修了初任給)
  • 7,209,000円(助教)
  • 8,550,000円(講師)
出典:https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400064717.pdf

メリット

  • 一人の研究者として雇用される

    学生という立場から、教職員として、また、一人の研究者として雇用されるわけですから、道半ばとはいえ、誇らしい気持で研究に取り組むことができるでしょう。学生の指導にも関与することで、新たなやりがいを見出すことができるかもしれません。

  • 准教授・教授という職を目指せる

    助教や講師は准教授・教授を目指すための1つのステップです。能力や環境、時の運によって、その期間は人それぞれですが、着実にその道を歩む一歩となります。

デメリット

  • 任期制の場合もあり、不安定

    ポスドクや助教の場合、任期付きの職が多く、見方によっては不安定といえます。その立場に甘んじる人はいないとは思いますが、安定を求める人には心理的なストレスがあるかもしれません。

  • 忍耐が必要

    東京大学の資料によると、助教、講師の平均年齢はそれぞれ40.3歳、43.1歳となっています。一概には言えませんが、30代から40代半ばまでは准教授にはなれないケースも少なくないでしょう。

    参考:https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400064717.pdf

  • 知名度が低い、職務内容がわかりにくい

    道行く人に、「助教、大学講師の仕事ってわかりますか?」と尋ねた場合、明確には答えられない人が大半を占めることでしょう。人生100年時代が到来し、ライフスタイルが多様化しつつある現代においても、そのような職業を選択する上では、他人の価値観に左右されないことや、周囲の理解が欠かせません。

准教授・教授

Lecture

概要

  • 准教授

    講師としての業績が認められると、晴れて准教授となります。かつては助教授と呼ばれていた職名です。多くの大学研究室は准教授と教授の名で運営されており、1つの研究グループを代表する存在として、広く知られる立場となります。(もちろん准教授となる前からその分野では著名でしょう。)大学や専攻によって異なりますが、学生の指導教官となり、責任をもって学生の指導にあたる立場となります。また、大学の講義も准教授や教授が行うことがほとんどであり、研究のみならず高度な学問についての見識を学生に教授することも重要な職務となります。

  • 教授

    准教授としての実績を積むことでさらに昇進することができれば、晴れて大学教員キャリアの到達点とも言える教授となります。教授ともなればその専門分野においては第一人者ですから、右に出る者はいないほどの実績と深い見識を備えていることが求められます。研究室を運営する真のボスであり、准教授以下上述の各ポストにある教職員、学生を束ねる主として活躍します。

年収

  • 9,507,000円(准教授)
  • 11,920,000円(教授)
出典:https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400064717.pdf

メリット

  • 自身の名で研究室を運営できる

    上述のように、研究室は准教授・教授の名で運営されることが多く、研究室のあらゆる業績がその名に関連付けて認識されます。学生を指導し、研究の力を伸ばすことで後進を育成し、また、研究室自体の名声を高めていくことができます。産業界からも名の知れた研究室となれば、企業との共同研究の声をかけられることも多々あります。学生の論文にも基本的に准教授や教授の名前が記載され、外部からはその研究室の業績として認識されるため、仮に自分が深く関わっていない研究内容だとしても、業績の1つとなったりします。

  • 一般の人にも知られた職

    大学講師です!大学で助教やってます!と言われても、研究室に所属した経験のない一般の人からすれば、それってどんな職業?すごいの?となることが多いかもしれません。一方で、准教授・教授と聞けば、具体的にどんな仕事をしているかわからないとしても、すごい!(すごそう!)と思ってもらえることでしょう。有名大学であればより一層高い社会的な評価を得られるのではないでしょうか。

  • 安定

    海外の大学には終身雇用の制度もあるようです。国内でも実質終身雇用のようなもので、大学が経営難にでもならない限りはかなり安定した職業と言えるのではないでしょうか。

  • 一定の業績を収めた後は悠々自適(?)

    若い頃に一定の業績を収め、教授に昇進してしまえば悠々自適な教授ライフが待っています笑。半分は冗談ですが、あながち真実なのではないかとも思います。教授ともなると、自分が手を動かして研究する例はかなり少ないのではないでしょうか。研究自体よりも、研究室を運営するための学生指導や、学内の事務的な仕事がメインとなります。大学という組織に属している以上は、学内の煩雑な業務をこなさねばならないこともあるでしょう。一方で、研究室という枠で考えると、教授は組織のトップです。誰に指図を受けることもありません。研究室の実績を積み重ねてくれる優秀な学生や、細々とした業務をこなしてくれる准教授がいれば研究室のシステムはうまく機能し、教授は研究室に所属しながら気ままな隠居生活が送れるというわけです。実態は研究室によりけりでしょうが、これも厳しい研究者としてのキャリアを歩んできた特権なのかもしれませんね。

デメリット

  • 研究以外の職務も多い

    准教授、教授ともなると研究以外の仕事が多く、バリバリの研究者です!という人はだんだん少なくなります。もちろん、手を動かす学生と議論したり、研究を進めるために学術的に重要な助言をしてあげることは、指導を受ける学生にとって欠かせないものです。一方で、講義による大学(専攻)への貢献や、学会・研究会等におけるその学問分野自体へのより一層の貢献が求められることも事実です。このような仕事は、準備やコミュニケーションに多くの時間を取られる場合もあり、研究したくてもできないという状況になってしまうのが現実のようです。

  • 研究費の確保が必要

    研究分野によっては、装置の購入等のために多額の研究費が必要となります。研究室を運営していれば研究費が降ってくるわけではなく、科研費の申請・審査を経て助成金を得る必要があります。自身の研究室の活動が、学術研究の発展に寄与するものであるということを示し、研究費を確保することが求められます。

  • 働き方改革なんてなかった(?)

    多くの学生の指導にあたる、特に若手の准教授の場合、その業務はかなり多忙なものとなります。上述のような事務仕事や、学生の指導、論文執筆指導など、いくら時間があっても足りないという状況はそう珍しいものではないでしょう。深夜まで締め切り間近の論文の修正をしなければならないのに、翌日の午前中に授業が!なんてこともありえます。それでも代わりに業務を受け持ってくれる人がいるわけもなく。。。自分以外に頼れない場合も多く、責任の重い仕事であると言えるでしょう。

  • 教授への忖度

    准教授や若手の教授が年上の教授と共に研究室を運営する場合、忖度が必要になる場合もあります。上述のように、半ば隠居状態の教授の分まで仕事が降ってくることもありますが、研究室を長く支えてきた教授の手前、文句を言うわけにもいかず。。。忍耐が必要な場合も少なくないでしょう。

参考情報

以下の記事では大学教授のリアルな経済事情が公開されており、参考になるかと思います。

参考:現代ビジネス「大学教授」の「給与、手当、ボーナス」一体どれくらいもらってるの?

キャリアを考え直したい。。。それは可能?

Careerpath

「ゆくゆくは大学教授になるために博士課程に進学したけど、研究生活のなかでキャリアを見直したくなった」、あるいは、「修士過程を終えて、民間企業に就職したけど、やっぱり博士号や、大学教員の職に魅力を感じる。。。」、そんなことを考えたことがある人もいるのではないでしょうか?最後に私の知り合いの実例を交えて多様なキャリアパスの一例をみていきたいと思います。

 



研究職のキャリアパスの例

  • 博士→コンサル

    博士課程の説明で記述したように、博士号取得という経歴に価値を感じる企業は、研究関連だけではありません。その潜在能力の高さを認められ、コンサルティングファームに入社する例はその典型的な例であると言えます。

  • 修士卒→就職→博士課程再入学

    私の先輩には、修士過程を修了した後に民間企業に入社して数年働き、再び博士課程の学生として大学に戻った方もいます。このような例の場合、以下のような理由が考えられます。

    • 民間企業に就職したが、企業における研究や、研究以外の職が肌に合わなかった
    • 民間企業で研究をする過程で博士号の価値を再確認し、改めてチャレンジしようと考えた

    他にも個人の価値観次第で様々な理由が考えられるかと思います。また、修士課程修了後に民間企業に就職し、その会社に籍を置いたまま博士課程に入学する例も見られます。その会社が個人の研究職としてのキャリア形成に理解があるか、共同研究先として価値を感じているかなど、必ずしも実現できるとは限りませんが、一考の余地があるキャリアパスなのではないかと思います。就職・転職の際には、このような選択が可能かという点を意識してみるのも良いかもしれません。

  • 博士卒→就職→教員として研究室に戻る

    博士号を取得後、研究室で希望するポストが空いていない場合など、やむをえず就職を選択するということもあるかと思います。実際、私の知り合いにも博士号取得後、民間企業に就職したけれど、研究室のポストが空いたことがきっかけで退職し、研究室に教職員として戻った人がいます。

研究職にも多様なキャリアパスがある

今回は修士課程修了後、博士課程に進学し、ゆくゆくは大学教授を目指すというキャリアパスを例として、研究職のキャリアをメリット・デメリットを交えて考えてきました。この他にも、民間企業の研究職として就職する例など、ひとくちに研究職といっても多様なキャリアパスが存在します。職業として研究をして食べていきたい!と考えている学生の方も、既に何らかの研究を生活の糧としている方も、一度ご自身の研究ライフについて見つめ直してみるのはいかがでしょうか?