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透明マントってホントに実現できるの?科学的に解説!

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「ハリーポッター」に登場する「透明マント」、「スタートレック」の「クローキング(遮蔽)装置」のような「透明化・不可視化」はSF・ファンタジーの定番ですよね。

今回は、「透明マント」に代表される「透明化・不可視化」技術について、有望な技術や研究の動向を解説していきます。

なお、今回の内容は「遅い光と魔法の透明マント」(草思社, 2014)を参考にしていますので、興味のある方は書籍の方も手にとってみてください。

それでは見ていきましょう!



「透明マント」だけじゃない!SF・ファンタジーに登場する透明化技術

これまで数々の物語の中に登場してきた透明化技術。現代で最も有名なのは「ハリーポッター」の「透明マント」でしょう。しかしながら、SFやファンタジーに登場してきた透明化技術はこれだけではありません。代表的なものだけでも、次のような技術が挙げられます。

  • 透明人間(自分自身を透明化)
  • 透明マント(衣服や人体などを隠す)
  • クローキング装置(宇宙船のような大きな物体を見えなくする)

どこかで耳にしたことのある用語が並んでいますね。一見非現実的なように見えますが、(実現できるかどうかは別として)どれもあながち科学を無視したものではないのです。

透明人間

1897年には、「透明人間」という概念が物語になっています。H. G. ウェルズによる「透明人間」では、「反射・屈折・吸収のどれも起こらなければ見えなくなる」という原理を透明化の根拠としています。これは、「光を透過させる物体は、屈折率が周囲とほとんど同じなら見えなくなる」と説明されています。みなさんも、水の中に入れたガラスが見えにくくなるという経験をしたことがあるのではないでしょうか?

クローキング(遮蔽装置)

「スタートレック」に登場し、宇宙船のような物体を見えなくする遮蔽装置は、一般相対性理論を応用しています。歪んだ時空を局所的に作り出すことで、光を迂回するようにねじ曲げてしまうのです。

現代の技術でも透明になれる!?

100年以上前から「透明化」への憧れを持っていた人類。それでは、現代の技術で「透明化」は可能なのでしょうか?

答えとしては、「(制限付きで)可能」と言えるでしょう。もちろん、現代人は「透明マント」を使っていないので、かなり限られた特殊な条件下で可能ということになります。

それではどのような技術が「透明化」に一役買っているのか見ていきましょう。

迷彩(カムフラージュ)

「迷彩柄」という言葉は誰しも聞いたことがあるのではないでしょうか?一般的にも迷彩柄の服が売っていたりしますが、「迷彩」の起源は軍事技術です。兵器や兵士を背景に溶け込ませて見えにくくする技術が「迷彩」と呼ばれています。元々は派手なものも多かった軍服も、19世紀に入ってからは「迷彩柄」を各国の軍隊が取り入れるようになりました。

ステルス

ステルス機に使われている技術で、レーダーのような探知機から機体を「見えなく」する技術です。ちなみにレーダーとは、簡単に言えば、電波のビームを発射して、見たい物体に当たって帰ってきたビームを観測することで物体があることを知る(=見る)装置です。

レーダーから「見えなく」するには、「電波をレーダーの方に返さなければ良い」ということになります。この発想に基づき、1981年、アメリカ空軍が「F117ナイトホーク」を初飛行させました。

出典:Wikipedia 「F-117」

滑らかで丸みのある機体が当たり前だった航空機界では異質な、多面体構成であることがわかりますね。「絶望のダイヤモンド」と呼ばれ、レーダー発射源に電波を返さない(=見えない)ことに成功しました。

ステルス技術は更に洗練され、現代で最も「透明化」に成功している技術と言えるでしょう。



光学迷彩

光学迷彩の主要なアイディアは、「ディスプレイを使って、透明にしたい物体の前面に背景部分の映像を投影する」というものです。これにより、物体を見る人からすれば、背景が透けているように見える、つまり物体は見えないということになります。ボディスーツに応用すればもはや透明マントと言えそうですよね。

2003年に東大の研究グループより発表された光学迷彩技術は世界的に話題となりました。この研究では、光が入射した方向に反射する「再帰性反射材」を用いています。ビデオカメラやプロジェクターを必要とする制限付きですが、ナノテクノロジーによる小型が将来的に実現できれば、「透明マント」や「透明コックピット(自動車や飛行機の操縦者が、不透明な部分を通して外部を見られるようにしたもの)」の実現もありうる技術です。

参考:Telexistence and Retro-reflective Projection Technology (RPT)

メタマテリアル

メタマテリアルとは

最後に紹介するのは、「メタマテリアル」という技術です。「メタ」とは、「超越した」という意味の古代ギリシャ語の接頭辞で、直訳すれば「超越した物質」ということになります。なにやらスゴそうな響きですね。名前からも察せられますが、金や銀のようにメタマテリアルという物質が自然界に存在するわけではなく、ある特殊な構造・パターンを加工して作り込んだものを指してメタマテリアルと呼称します。

メタマテリアルによる透明化

メタマテリアルを用いた「透明化」は、「スタートレック」のクローキング装置と同様に、「光を曲げることで物体を隠す」というものです。もう少し説明すると、何らかの手段(クローキング装置やメタマテリアル)によって光線を曲げて物体を迂回させ、その後再び合体させてもとの進行方向に進ませることで、あたかもその物体はそこになかったかのように観察者には感じられるという原理です。人間は物体から反射してくる光を見ることで、物を見ることができます。光が物体を迂回して元の方向から進んできたように感じられれば、そこにあるはずのものは見えなくなってしまうのです。

同じように光を迂回させるものでも、「スタートレック」のクローキングで応用されている理論は、太陽よりも大きな質量をもった物体が必要になるなど実現性が低いものです。一方でメタマテリアルは物質の構造によって性質が発現するものであり、膨大なエネルギーは必要とせず、この問題は解決します。

「負の屈折率」が鍵

ではどうしてメタマテリアルを用いると光を迂回させることができるのでしょうか?その答えは、「負の屈折率を実現できるから」です。

1964年、「負の屈折率」をもつ物質に関する理論が発表されました。通常のレンズなどに用いられる物質の屈折率は正の値をとり、1~2程度であることが普通ですから、「負の屈折率」は相当異質なものであると言えます。

そして2000年には、人工的に作られた「メタマテリアル」によって「-2.7」の屈折率が実現されました。

メタマテリアルによる透明化は実現されている

2006年にはメタマテリアルによる透明化の実証実験が行われています。実現された方法は次のとおりです。

  1. 透明化させたい物体を「球殻」で覆い、内部に光が侵入できないようにする
  2. 球殻の屈折率特性を調整(ここにメタマテリアルを使う!)して入射光を曲げる
  3. 球形の内部を迂回するように光を導き、元の進行方向に送り出す

これにより、前述の「光を曲げることで物体を隠す」が実現されたのです。「屈折率特性の調整」にメタマテリアルが用いられているわけですが、詳しい原理は難解なので割愛します。レンズのような光学素子も屈折率を調節して光を曲げているわけですが、これらは現状すべて屈折率が正であることはすでに述べたとおりです。メタマテリアルを用いることで屈折率が負の状態を作り出すことができるため、光を曲げることで物体を隠すような難しい調整も可能になったのです。



「透明マント」は実現できるのか?

なぜ「透明マント」は使われていないのか

実証実験が行われているにも関わらず、なぜハリーポッターの世界は未だにファンタジーなのでしょうか?簡単に言うと、可視光(人に見える光)で実現することは難しいからです。実証実験はマイクロ波(電波の一種)で行われたものであり、我々が普段見ている光ではありません。

可視光で透明マントを実現するには

マイクロ波では透明化できて、可視光では実現できていない理由はいくつかあります。例を挙げると…

  • 微細な構造を作る必要がある
    • マイクロ波と可視光では、対応するメタマテリアルの大きさが異なります。可視光で実現するためには、高度な微細加工技術が必要となります。
  • 広範囲の波長(いろいろな色)に対応させる必要がある
    • 可視光と一口に言っても、赤や青、緑という様々な色があり、幅広い波長帯を含んでいます。これらすべてに対応したメタマテリアルを作るのは難易度が高いです。
  • 3次元の遮蔽が必要
    • 実証実験では、球殻の断面である円形に沿って光が進む条件に限定されたものでしたが、完全な透明マントを実現するためには、3次元的に光を迂回させる必要があり、難易度が上がります。

となります。透明化が実証されたといっても、かなり限定的な条件であったということなのです。

「透明マント」実現に向けて

透明マント実現までの道のりは長いが、研究はますます進んでいくはずです。ステルス機の例のように、軍事的な需要から研究資金が援助されやすいという理由もあるようです。また、メタマテリアルは、透明化のみならず「完全レンズ」のような応用においても注目されており、技術の進化が期待されます。

そして何より、人々の「透明マント」のような夢のある技術への憧れが、その実現に向けての研究を加速させていくと考えられるでしょう。

今回参考にした「遅い光と魔法の透明マント」(草思社, 2014)では、透明マント以外にも「量子テレポーテーション」や「量子コンピューター」、「レーザー核融合」といった話題に触れています。興味深い内容ばかりなので、ぜひ読んでみてください。