こんにちは、管理人のウノケンです。
今回は、家庭用3Dプリンターの主な2つの造形方式の違いについて徹底解説していきます。
現在、市販されている家庭用3Dプリンターには、大きく分けて次の2つの種類があります。
- 光造形方式
- FDM(Fused Deposition Modeling)方式
「3Dプリンターを使い始めたい!」という方にとっては、どちらを選べばよいか迷ってしまうことも多い2つの方式。そんな光造形方式とFDM方式の違いも、この記事を最後まで読むことでしっかりと理解できるでしょう。最後には両方式の違いを一覧表にまとめています。選択の際に参考にしてみてください。
初心者の方だけでなく、光造形方式とFDM方式の片方しか使ったことのない人にもぜひ読んでいただければと思います。もう一方の3Dプリンターの魅力に気づくきっかけになることでしょう。
それでは見ていきましょう!
【はじめに】光造形方式とFDM方式の名称について
光造形方式とFDM方式は、両者とも異なる名称で呼ばれることがあります。
初心者の方にとっては混乱のもとになるので、最初に整理しておきましょう。
3つの光造形方式(SLA/LCD/DLPタイプ)をざっくり解説
光造形方式の中にも、いくつかの種類があります。
SLAタイプ
SLAタイプは、レーザとミラー(鏡)を用いて3Dモデルの1点1点を硬化させていく方式です。
レーザを用いるため価格が高く、家庭用3Dプリンターにはあまり用いられません。
LCDタイプ
テレビやスマホの画面にも用いられる液晶パネルを使用した方式です。比較的安く、家庭用3Dプリンターにも多くのモデルが存在します。
低価格帯の家庭用光造形3Dプリンターは基本的にこのLCDタイプです。
DLPタイプ
DLPと呼ばれる非常に小さなミラーを用いる方式です。DLPと聞いてもピンと来ないかもしれませんが、会議などで用いられるプロジェクターによく使用されています。
家庭用3Dプリンターではほとんど見られないタイプですが、Anycubic社のPhoton UltraはDLPタイプです。
さまざまな呼び方があるFDM方式
本来、「FDM」という名称は3Dプリンター製造大手ストラタシス社の商標です。「FFF(Fused Filament Fabrication)」という名称で呼ばれることもありますが、筆者の感覚では「FDM」方式のほうがより一般的だと感じます。
その他にも、FDM方式は次のような別名があります。3タイプある光造形方式とは異なり、どれも同じFDM方式なのですが、人によって、あるいは企業によって呼び方が異なる場合があるので注意しましょう。
光造形方式とFDM方式の【造形方法】の違い
さて、ここからは光造形方式とFDM方式の主な違いについて解説していきます。
最初に説明するのは、3Dプリンターとして「どのように3次元形状を形作っていくのか」という「造形方法」の違いです。
光造形方式は「光」で樹脂を固めていく
光造形方式は、その名の通り「光」を使った造形方式です。
プラットフォームと呼ばれる土台に、一層ずつ樹脂(レジン)を固めながら引き上げていき、3次元形状を作り上げていきます。
上の図では、右上の板のような部分がプラットフォームです。材料となる樹脂(レジン)は最初液体で、図の右下にあるタンクに入れておきます。図には含まれていませんが、タンクの下にLEDやUVランプが設置してあり、その光を使って樹脂を硬化させます。
FDM方式は「熱」で樹脂を溶かして積み上げていく
FDM方式は、熱溶解積層方式とも呼ばれます。つまり、「熱」で樹脂を「溶解」して、「積層」する方式なのです。
上の図では、建物のような3次元形状が造形されています。建物の上にあるものがノズルで、このノズル部分で材料を熱して溶かし、押し出していきます。ノズルが縦横無尽に動き回ることで、3次元形状ができあがっていきます。
光造形方式とFDM方式で使われる【材料】の違い
つづいて、光造形方式とFDM方式で使われる「材料の違い」について解説していきます。
造形方式によって使用する材料が異なるので注意しましょう。
光造形方式は液体の樹脂(=レジン)を使用
光造形方式では、上のようなボトルに入った液体状の樹脂を使用します。この液体状の樹脂は、「レジン」と呼ばることが多いです。
使用する3Dプリンターの性能にもよりますが、液体ベースの材料を使う光造形方式は、なめらかな表面に仕上げるのが得意です。
FDM方式は長く繊維状の樹脂(=フィラメント)を使用
FDM方式は、長く繊維状に加工された、固体上の熱可塑性樹脂を使用します。この樹脂は、一般に「フィラメント」と呼ばれ、上の図のようにロール状に巻かれています。
光造形方式のレジンに比べると、使用できる材料の種類が豊富で、強度があり実用的な材料も使用することができます。
光造形方式とFDM方式で作られる造形物の【精度】の違い
次は、光造形方式とFDM方式の3Dプリンターで作られる造形物の「精度の違い」について解説していきます。
印刷精度(解像度)の違い
まずは、以下の光造形方式3Dプリンター、FDM方式の3Dプリンターの印刷精度の例を見てみましょう。比較のため、同じメーカー(Anycubic)の同程度の価格帯(3万円前後)の3Dプリンターをピックアップしています。どちらもAmazonのランキング上位に入る人気のモデルです。
光造形方式3Dプリンター Anycubic Photon Mono
FDM方式3Dプリンター Anycubic MEGA-S
さて、両者の印刷精度を確認してみましょう。
モデル | Photon Mono(光造形) | MEGA-S(FDM) |
印刷精度(XY解像度) | 0.051 mm | 0.05-0.3 mm |
上の表によれば、どちらもXY解像度は0.050 mm(50 um)程度と、ほとんど違いがありません。
実際にできあがった造形物を比較すると、光造形方式の方がなめらかな仕上がりになります。これは、光造形方式が液体のレジンを1層ずつ硬化させていく方式のため、層と層の間が連続的に仕上がりやすいからです。
一方、FDM方式は積層痕が目立ちやすいという特徴があります。これは、FDM方式が1点1点フィラメントを一度溶かしながら固めていく方式であることが影響しています。
フィギュアのような見た目を重視する造形物を作りたい場合は、光造形方式を強くおすすめします。
寸法精度について
寸法精度、つまり、造形物がどの程度設計データ通りに作成できるか?という点では、意見が分かれるところかと思います。
というのも、設計データ通りに造形できるかは、材料の性質や装置の質、造形物の形状、ユーザの経験値等に左右されるためです。
一般には、FDM方式は熱収縮が起こりやすく、反りが生じやすいという意見があります。とはいえ、光造形方式でも反りが生じる場合はよくあります。
最近の3Dプリンターは、うまく扱えば低価格帯でもかなりの精度で造形できます。この点では、「光造形方式か、FDM方式か?」という観点では考えすぎなくて良いでしょう。
光造形方式とFDM方式で作られる造形物の【強度】の違い
次は、光造形方式とFDM方式のそれぞれで作られる造形物の「強度の違い」について解説します。
この点に関しては、明確にFDM方式が有利と言って良いでしょう。
FDM方式で使用できる熱可塑性樹脂は、最終製品にも使用される樹脂です。つまり、3Dプリンター以外の方法で作られた、一般的なプラスチック製品と同等の強度で造形することが可能なのです。
一方の光造形方式で使用できる材料は、光で硬化する性質をもつ樹脂のみです。そのため、強度の高い樹脂は少ないのが現状です。FDM方式の材料に比べると、経年劣化の可能性も高いものが多いです。
DIYの部品など、強度を重視した造形物を出力したい方は、迷わずFDM方式を選びましょう。
光造形方式とFDM方式の【造形時間】の違い
次に、光造形方式とFDM方式における「造形時間の違い」について解説します。
造形時間については、光造形方式が圧倒的に速いです。
造形物や装置の違いによって、FDM方式よりも光造形方式がどの程度速いか?は異なります。しかしながら、基本となる造形方式の違いから、一般に光造形方式が高速と言えます。
- 光造形方式(LCD、DLPタイプ):面で一括硬化
- FDM方式:1点1点固めていく
例えば、光造形方式では同じものを1個作るのも、2個作るのも造形時間は一定です。これは、左右に並べてしまえば一気に硬化させることができるからです。
一方、FDM方式の場合、同じものを2個作るには1個作るときの2倍の時間がかかります。1点ずつノズルを移動させながら固めていくことから、1個作り終わったあと2個目に進むしかないのです。
比較的小さいサイズのモノを一度にたくさん作りたい場合には、光造形方式がおすすめです。
光造形方式とFDM方式の造形後【後処理】の違い
光造形方式とFDM方式では、「後処理の仕方」も異なります。
光造形方式は洗浄と二次硬化が必要
光造形方式は、3Dプリンターで出力したあとに洗浄し、さらに二次硬化させる必要があります。
洗浄は、造形物の表面に残った未硬化の樹脂を洗い流す作業です。通常のレジンの場合、IPA(イソプロパノール)のような有機溶剤を使った洗浄が一般的です。
洗浄して造形物を乾燥させたあとは、二次硬化というステップが欠かせません。
プリントされた造形物は、完全に硬化しているわけではありません。二次硬化では、その硬化しきっていない造形物にUV光を再度照射して、完全に硬化させる作業です。
このように、光造形方式は出力後の作業に意外と手間がかかります。
洗浄と二次硬化の両方に対応した以下のような製品も出ています。必要に応じて取り入れてみると、時間短縮に役立つでしょう。
FDM方式は後処理がラク
手間がかかる光造形方式に対して、FDM方式は後処理の手間がほとんどありません。
造形物の取り外しやサポート材の除去といった、光造形方式にも共通する作業を除けば、必要な作業はヤスリがけ程度です。
光造形方式に比べてFDM方式は積層痕が目立ちやすいことはすでに述べたとおりです。積層痕が気になる場合や、見た目を美しくしたい場合には丁寧にヤスリがけしてあげましょう。
光造形方式とFDM方式を使用する上での【注意点】の違い
続いて、光造形方式とFDM方式における、「安全上の注意点」について述べていきます。
光造形方式は樹脂・洗浄液の取り扱いに注意
光造形方式は、液体の樹脂や洗浄用の有機溶剤を取り扱います。
これらの液体は人体に有害物質を含む場合があります。皮膚に触れたり、吸引することは可能な限り避ける必要があります。
光造形3Dプリンターは、通常樹脂に含まれる有害物質が室内に放出されるのを防ぐ構造になっています。とはいえ、プリント前後の開放時や、洗浄時には有機溶剤が飛散する可能性があります。
光造形3Dプリンター使用時には、換気とマスク・手袋・メガネの着用を徹底しましょう。
FDM方式は加熱されたノズルに注意
FDM方式3Dプリンターは、フィラメントを溶かすためにノズル部分の温度が200℃程度まで上昇します。
使用時に3Dプリンターユーザが触れることはないかと思いますが、周囲の人、とくに小さい子どもが触らないように注意が必要です。
光造形方式とFDM方式で推奨される【使用環境】の違い
最後に、光造形方式とFDM方式のそれぞれで「推奨される使用環境の違い」について見ておきましょう。
使用する材料の違いから、光造形方式とFDM方式で注意すべき環境上の要件が異なるので、確認しておきましょう。
光造形方式は換気と温度に注意
光造形方式は、液体の樹脂(レジン)を用いることから、換気と温度に注意する必要があります。
換気についてはすでに述べたように、有害物質を室内に滞留させないためです。装置のカバーを開放する造形前後のタイミングは特に換気を忘れないようにしましょう。
また、温度についても注意が必要です。適切に造形するためには、使用するレジンに適した室温に保つ必要があります。
例えば、以下のNOVA3D水洗いレジンは15-35℃が適正温度となっています。気温が下がる冬場などは注意が必要ですね。造形不良を起こさないよう、造形開始前にレジンの温度が適正温度になるように気をつけましょう。
FDM方式は湿度に注意
FDM方式で使用するフィラメントは、湿度が大敵です。
フィラメントは吸湿性が高く、湿度が高い保管環境では水分を含んでしまいます。材質にもよりますが、水分を含んだフィラメントを造形に使用すると、造形物がもろくなったり、反りが生じてしまいます。
フィラメントの乾燥方法はさまざまですが、手っ取り早いのは専用の乾燥機(ドライヤー)を使用することです。
SUNLUのFilament Dryer Boxは、比較的お手頃な価格で使いやすくおすすめです。梅雨もあり湿気の多い日本では必須アイテムと言っても良いでしょう。
【まとめ】光造形とFDMのどちらを選ぶべき?ポイント一覧
今回は、家庭用3Dプリンターの主な2つの造形方式である「光造形方式」と「FDM方式」の違いについて徹底解説しました。
最後に、2つの方式の違いがひと目で分かる一覧表を掲載します。選択の決め手になりうる有利な項目は太字で示しています。
光造形方式 | FDM方式 | |
造形方法 | 光で液体のレジンを硬化 | 熱で繊維状のフィラメントを溶かして積層 |
使用できる材料 | 光硬化性樹脂 種類が少ない | 熱可塑性樹脂 種類が多い |
造形精度 | なめらかな表面 | 積層痕が目立つ |
造形物の強度 | 比較的耐久性が低い | 一般的なプラスチック製品と同等の材料も使用可能 |
造形時間 | 高速 複数個の作成にかかる時間が一定 | 低速 |
後処理 | 洗浄、二次硬化が必要 | ほぼ必要なし |
安全上の注意点 | レジン、洗浄液の取り扱い | 高温のノズル |
使用環境の注意点 | レジン、洗浄液使用時の換気 レジン使用時の温度 | フィラメントの吸湿 |
一覧表を参考にして、自身の目的にあった3Dプリンターを選んでみてください。